IAAトランスポーテーション2022


商用車はゼロエミッションを目標にEVを中心に展開、ドイツ・ハノーバーで2022年秋に開催

物流や乗客輸送など商用車の世界的なイベントとして知られる「IAAトランスポーテーション」が2022年9月20日から25日までの6日間、ドイツ・ハノーファーメッセ(国際見本市会場)で開催された。もともと「ハノーファーモーターショー」は商用車の展示会として歴史があり、名称変更された。今回は41か国から1400社以上が出展した。

広大な敷地には屋内展示会場の中で、今後の環境対策を先取りする「ゼロエミッション」を見据えた大型トラックやバスの展示が目立った。エンジンに代わるパワートレインとして、日本ではまだまだ馴染みの少ない大型車の燃料電池(フューエルセル)をはじめ、発電システム、バリエーションに富んだ開発中の小型バス・トラックが目白押しだった。さらに屋内はもちろん屋外展示場で、商用車のバリエーションを会場の見ることができた。ボデー架装、特殊車体、小型バイクなど、物流ビジネスに応じた多彩なサイズに加え、さらに大型車に搭載するリフトやアームなど機能パーツ、冷凍冷蔵技術などのメーカーも展示していた。そして、わずかだが私がこれまで関わってきたアフターサービス機器メーカーも出展していた。

それではいくつかのポイントを写真で紹介しよう。

劇的に進む商用車のゼロエミッション

欧州は、2030年までにCO2排出量を30%削減(2019年比)と、さらに2035年のガソリン車生産停止に向かっており、ダイムラー・トラック、ボルボ、マン、イベコ、スカニア、フォードなど、欧米の主要大型車メーカー各社は電気自動車(EV)、燃料電池車、水素自動車など、それぞれが開発したニューモデルをアピールし、広い展示ブースの中で発表していた。なかでも1回の充電で500km航続距離を伸ばしているダイムラーのEVトラック「eアクトロス・ロングホール」が注目を集めていた。リン酸鉄リチウム電池を採用し、1メガワットの充電ステーションで30分以内に20〜80%まで充電できるという。テストを開始し24年から量産化する予定だ。

さらに主要メーカーだけでなく、水素燃料電池をベースにしたEVバス・トラックは、1回の充電による航続距離を1,000kmに近づけようと開発を進め、ハイゾン・モータース(アメリカ)やクアントロン(ドイツ)、日本への参入を決めた中国・BYDやトルコ・カルサンなど、次々と新たなメーカー出展していた。

トラック輸送の多彩さを実感できる

ヨーロッパの物流はトラック輸送が主流だ。最大限の輸送を可能にするトレーラーは、食材など新鮮な状態で冷蔵・冷凍して輸送する機能、特別な用途のために開発された重機や特殊車両など実に充実し、日本で見る機会がない商用車が数多く展示されている。日本ではトラックメーカーは数社に限定されるが、ヨーロッパではメーカーの数は豊富だし、架装メーカーも多いゆえ、豊富な機能だったり、見事な設計に驚きを覚える。

日本のダイキンも欧州で活躍

Transport systems by Daikin Europe

また、ボデー架装、特殊車体、輸送用コンテナなどのメーカーも多かったが、日本では空調機器で知られるダイキン・ヨーロッパは、買収したイタリアメーカーの技術を搭載したトラック輸送用冷凍システムをアピールしていた。

訪問時、ダイキンヨーロッパ・馬本副社長にインタビューする機会があったので、下記のコラムをご一読いただきたい。

RENAURT Hippie Caviar Motel 仏ルノー ヒッピー・キャビア

フランス・ルノーは、商用車で人気車種の「カングー」をベースに全長を伸ばして改良した第2弾、 EV-SUV「ヒッピー・キャビア・モーテル」を展示し注目を集めていた。旅を楽しむ目的を大切にして「移動カプセルホテル」の機能を持ち、レジャーやビジネスに利用できる可愛らしい車両だった。

この車は富士山麓でも紹介されているというが、チーフデザイナーのルイ・モラス氏は次のように話してくれた。

この車はカングーの第2弾。車体の全長を伸ばし、レジャーにもビジネスにもさまざまな機能を持たせた魅力のあるユーティリティカー。家族や仲間と共に車で移動することを楽しむ「ヒッピー」たちのライフスタイルを大切にしつつ、この車で高級食材の象徴である「キャビア」を食べ、夜はルーフを開けて星空を見たりして自然を楽しむことをコンセプトにしている。また、テーブルも備えておりオフィス空間としても利用できる。ストレージも充実し、スキー用具などを収容したり、釣りなどで濡れた用具なども別に格納できるスペースもある。

ラストマイルへの積極的な取り組み

また、次世代への「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」を提案するために、会場の一角に設けられた「ラスト・マイル」(ラスト・ワンマイルと同意)のスペースでは、物流関連サービスに焦点が当てられていた(左)。「カーゴバイク」と呼ばれるEV仕様の工夫を凝らした2輪車、3輪車(中央)や小型4輪車によるデモンストレーションが行われていたほか、産官学による共同開発で推進してきた宅配サービスの自動システム化したデリバリーカー(右)も登場していた。また、さまざまな研究成果のプレゼンテーションコーナーも充実していた。

さまざまな業務で利用度を高めるDX化

DX(デジタルトランスフォーメーション)について触れておきたい。

また、展示ホールの一つで実車体験できる「テストドライブ」のコーナーが設けられている。特にデジタル機器を駆使したシステムが充実していた。

中でも、ボッシュが開発した「ライドケアインサイト」は、フロントガラスに取り付けられたセンサーボックスで(写真下左)、車内の喫煙や道路での損傷などの変化を運転席でモニターできるAIを利用したシステムだ。特に監視しづらいカーシェアリング、レンタカー会社や損保会社などでも活用できるシステムのように感じた。また同社は、展示ブースでサイドミラーの代替としてデジタルビジョンシステムを搭載したトラックを提案していた。車両の周囲をドライバーがリアルタイムで確認できるシステムだ(写真下右)

アウトメカニカにも出展していたボデーショップ業界をはじめ自動車業界にさまざまなシステムを提供するソレーラは、アウダテックスも傘下に持ちイギリスを本拠地にグローバルに展開する企業。ここでは事故車見積りシステムとともに、物流をトータルで管理するシステムを紹介していた。さらに、ドライブレコーダーをベースにした運行記録、エネルギーコスト、路上で発生した事故の記録、さらに運転手の健康管理などリスクマネジメントを行う「eドライビング」システムなどを紹介していた。ドライバー不足、コスト上昇などが背景にあるゆえ、問題解決や収益確保ためのシステムとしても有効になるだろう。

デジタル化はさらに多くの業務に不可欠なるのは確実だ。そのための情報収集は怠ってはいけない。

オールドタイマーは業界を挙げて情熱を入れる

また、塗料メーカーなどの出展はなかったものの、塗装に関連してアウトメカニカ2022でも注目された「オールドタイマー」の展示場が設けられていた。トラックやバスなど往年の欧米の商用車が展示されていた。歴史ある車両への関心と技術を伝承しようとする熱意がここでも感じられた。

修理機器メーカーは残念ながら少なく

その他、ドイツ・コッホがトラック用のホイールアライメントテスターを展示し、ウルトが修理作業に必要な様々な機器をトータルで紹介していた。

アフターサービス関連機器の展示では、フレームなどを修正する装置のメーカーとして唯一、スウェーデン・ヨサムが出展していただけだった。トラック用修正装置のパーツ類、計測システム「カムアライナー」と周辺機器、さらに加熱することによりトラックフレームを修正するインダクションヒーターのデモを行っていた(写真)

関連記事 アウトメカニカ・フランクフルト2022のレポートもご一読ください

※(この稿は月刊「ボデーショップレポート」誌2022年12月号から2023年3月号の「海外ニュースパラフレーズ」で掲載された拙稿を加筆再編集したものです)

“IAAトランスポーテーション2022” への 3 件のフィードバック

  1. […] 遅れ気味と言われる日本だが、いち早く普及したハイブリッドやプラグインハイブリッドをはじめ、さらに充電によるバッテリーの電気自動車、水素自動車、燃料電池車など、それぞれの技術的特性を生かし、市場は模索を続けつつ大きな変革期を迎えている。世界的な潮流の中では、ハイブリッドやEVが乗用車だけでなく、トラックやバスの分野でも新規参入が多く、開発が進められていることがよくわかる。私は2022年9月にドイツで開催された展示会IAAトランスポーテーション2022を見学したので、レポートが参考になれば幸いである。 […]

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