冷蔵・冷凍の低温と暖房技術を駆使、サプライチェーンでの活用拡大目指す


ダイキンヨーロッパ・馬本敦治取締役副社長

ダイキンヨーロッパ 馬本敦治(じゅんじ)取締役副社長

2022年9月21日から26日までの6日間、「IAAトランスポーテーション」がドイツ北部の街ハノーファーで開催された。この展示会は「商用車モーターショー」として歩んできた歴史がある。今回は4年ぶりの開催となり、名称も変更された。最先端のトラックなどの物流関係車両、乗客の移動用バスなど、多彩な商用車を見学した。特に、クリーンエネルギーをアピールした電気や水素といったガソリンに代わろうとするパワートレインなどの最新技術が披露されており、非常に関心を集めていた。欧州の物流はトラック輸送をメインとしており、いかに工業製品や農産物などを効率よく運搬するか、さまざまな工夫と機能を備えた車両が、広大な展示会場の屋内はもちろん、屋外にも並び、日本では見たことのない車両が目白押しだった。

日本ではエアコンをはじめ空調機器などではあまりに有名なダイキン工業がその一つだった。2024年に創業100周年を迎える同社は、今回初めてIAAに出展した。トラックの冷凍技術をPRすべく初めて出展。

ヨーロッパ全体がエネルギー危機に襲われる中で、逆風ばかりではなく同社にとっては追い風となって推移している事業もあるという。

ヨーロッパ、タイ、ドバイなどで長期にわたる海外勤務を続け、現在もダイキンヨーロッパ社(ベルギー)取締役副社長で冷凍・冷蔵の低温事業の推進役である馬本敦治(じゅんじ)氏に、今回の出展の意気込みと現状について聞いた。

85年の歴史と実績のある冷凍技術

ーーー貴社はいつ頃から冷蔵・冷凍車両を取り扱ってきたのですか。

まず、当社の空調機器の歴史を端的に振り返ってみましょう。今から遡ること85年前の1937年、フロンガスを冷媒とした冷凍庫を日本で初めて発売したことから始まりました。といっても実は、その2年前の1935年、もともと冷媒であるフロンガスを日本で初めて製造していたのです。流れとしては、そのガスを利用するために冷蔵庫を製造したのです。普通では逆かもしれませんね。その後は徐々に軌道に乗り、1951年からパッケージエアコンを販売しました。1968年、海上コンテナ用冷凍機に参入しました。

ヨーロッパでの事業はそれほど活発とはいえませんでした。最近の動きとして、ヨーロッパで2016年にイタリアの産業用・商業用の冷凍・冷蔵機メーカー、ザノッティ社を買収しました。さらに2019年、スーパーマーケットの冷凍や冷蔵製品を陳列するショーケースメーカーで、オーストリアのAHT社を買収しています。私たちは、それらをベースに業績を伸ばしていこうと、自分たちの持つ技術を活かし、サプライチェーンを俯瞰し、全体をカバーしたいと考えました。そのようなメーカーは世界で私たち以外にはありません。私たちはこうしたビジネスを始めたばかりですが、非常に期待しています。

エネルギー危機。ガスから電気に転換する暖房に強い関心る冷凍技術

ーーー今回商用車の展示会に出展した理由は何でしょうか。

自動車関連についてはそれほど大きな市場だとは思いません。市場全体が10兆円くらいで、その中で低温事業は10%程度かもしれません。我々は個別を狙うよりも、全体を俯瞰したいのです。私たちの顧客としては、日本で言えばイオンモールのようなスーパーマーケットの存在が大きいのです。ただ、世界を見回せば、世界第1位が「ウォールマート」、第2位がドイツでは「リドル」という企業があります。ここがとても重要です。こうした業者が取り組んでいる店はもちろん、宅配、大きな倉庫など、これらすべてをダイキンがカバーできるのです。しかもワンストップで済むのです。

さらに、私たちダイキン全体として「環境に優しい」企業でありたいと思います。当社の技術を活用しながらさまざまな事業に取り組むことによって、このような需要をカバーする余地が十分あると考えています。

ここ数年は利益率が低下傾向にあり、新しい需要を掘り起こすことが求められました。新事業を立ち上げないと売上げが停滞していた状況だったのです。いろいろと取り組んでみた結果、成功しているのが「暖房」です。ヨーロッパは日本のような暖房システムではありません。ガスでボイラーを回して温水を作ります。ガスボイラーは私たちも持っています。そのガスを電気式に変えるのです。電気で湯を沸かして循環させます。このシステムは私がイタリアに勤務していた16, 7年前電気式でやりたいと提案したのがスタートです。ガスを電気に変えるボイラーを当社が開発したのです。そうすると効率が3倍ぐらいよくなり、電気代が3分の1まで下がるのです。そのために私が戻ってきて順調に業績が伸びました。低温事業は難しいので、再びその事業に取り組んでいます。暖房は特にロシアのウクライナ侵攻によって、さらに関心が高くなっています。

世界第2位のスーパーマーケット「リドルLIDL」の店舗の袖看板

「環境に優しい」取り組みを通じて省エネを推進

ーーー今後の展開はいかがでしょう。

私はフランスにもいたことがあります。フランスの電気は原子力が80から90%を占めており電気式が主流です。フランスの電気会社と提携したことにより、暖房事業がスタートしました。

あるフランスのシャシーメーカーが非常に熱心に取り組んでいます。ガソリンを使わない冷凍車、冷蔵車のバンを開発しています。販売を組んで電気式の暖房。フランスは水素自動車、水素社会を作ろうとしています。日本とはまだ状況が異なります。日本ではガソリン1リットルあたり150円くらいで高くなったと騒いでいるようですが、ヨーロッパではすでに1リットル300円くらいしています。このように、今はビジネスとして暖房が主流です。エネルギーは大事ですし「省エネ」ももちろん大事です。エネルギーを「環境に優しい」技術に活かせる商品としての余地が大いにあると考えています。

2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、全世界で本格的に「環境にやさしい」空調技術をベースに、冷凍・冷蔵、そして暖房事業に取り組んでいるダイキン工業の今後に期待したい。

<IAAトランスポーテーションに関するプレスリリースは下記を(英語版)>

https://www.daikin.eu/en_us/press-releases/daikin-transport-refrigeration-moving-the-needle-on-sustainability-with-its-next-product-reveal-at-iaa-transportation-september-2022.html

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