ヨーロッパに行く楽しみの一つが教会で音楽を聴くことである。歴史と伝統を体感できる。
私の場合には、ヨーロッパ旅行のほとんどは聴くことよりも、合唱団のメンバーとしてミサや礼拝で歌うことを目的として回を重ねてきた。
聴く目的で旅をしたのは、1997年3月末から4月のイースター前後に教会で音楽を聴くことだった。ハイライトはドイツ・ライプツィヒの聖トーマス教会で、J.S.バッハの「受難曲」を聴くことにあった。この年は「ヨハネ受難曲」が演奏されたが、イエス・キリストが十字架で息たえた金曜日の演奏会は売り切れで、前日木曜日の演奏会を聴くことができた。途中、救急車のサイレンが隣接する道路に鳴り響くハプニングもあったが、何よりも演奏会が終わった後の拍手がなかったことに驚いた。これは、単なる演奏会という意味ではなく、キリストの受難を心に留める伝統や文化が長い歴史を経ていたことに深く感銘を受けた。その翌朝に同じ聖トーマス教会で行われた聖金曜日の礼拝に出席することができた。バッハの受難曲以外の音楽にも接することができた。特に、マックス・レーガーのコラールカンタータ「血潮したたる主のみ頭 」”O Haupt voll Blut und Wunden”や歌ったことのあるメンデルスゾーンの「6つの箴言」から「受難節に」「聖金曜日」の受難に関する2曲を聴くことができた。


その後も旅行では、その土地の教会に行くことを楽しみにしている。
2019年は、ハノーファー・マルクト教会での礼拝で聴いた少年合唱団は素晴らしかった。ハノーファーに住む知人も、「今日は少年合唱が聴けて運が良かった」と言っていた。ライプツィヒやウィーンをはじめ有名な教会の少年聖歌隊は、教会所属の学校で寄宿舎生活を送っていて教会の典礼で歌うが、ここは定期的に集合して練習を重ねているそうだ。教会は地域の文化を代表しているともいえる。

その後訪れたドレスデンでは、聖母教会Frauenkircheでのランチタイムオルガンコンサートが印象的だった。12時から始まるが、入場したら一旦扉を閉じて自由に見学することはできなくなる。オルガン演奏に加え、会衆で賛美歌を歌うし説教もある。最後に教会の説明が入り至れり尽くせりで、少々冗長のようにも感じたがとても丁寧だ。


1994年にドレスデンを訪れた時は、イギリス軍による爆撃で市内は破壊された教会の外壁の中で、形が残った石が設計図に基づいて積まれていた。じき再建される計画があるという話だった。その光景を垣間見ていただけに、2005年に再建された聖母教会に再び訪れることができて感慨深い。

聖母教会のウェブサイトで紹介されている礼拝の時間
https://www.frauenkirche-dresden.de/gottesdienste-und-andachten/
ザクセン州の代表的な街ドレスデンは、歌劇場や美術館もある。エルベ川の向こうから見える景色がとても美しい。市内には旧市街に集中して、聖母教会のほかにも聖十字架教会 Kreuzkirche、カトリック宮廷教会 Hofkircheがあり歴史的なジルバーマンオルガンがある。いずれも定期的にコンサートが行われており、音楽を楽しむことができる。
上の写真はいずれも2019年11月のライプツィヒ聖トーマス教会である。土曜日15時からのモテットで少年聖歌隊が登場するとあって、礼拝開始の15分前の開場を前に、ご覧の通り入口には長蛇の列ができている。教会の中に入ると、指定席ではないので見通しの良い席から埋まっていく。世界的にも有名であり、ドイツ語以外のさまざまな言語が聴こえてきて、地元の人たちよりも世界各国から観光客が多い印象だ。入場料の設定はないものの、プログラム代として2ユーロ支払うことになっている。プログラムは、オルガンの前奏、会衆賛美、聖歌隊の合唱、牧師の説教などで構成されており、1時間以上かかることもある。
教会には暦があり、時期によって音楽の雰囲気が違う。代表的なところではクリスマス、あるいは春のキリスト受難から復活、聖霊降臨(ペンテコステ)にかけての時期だ。またカトリック、プロテスタント、あるいは他の教派によって音楽が異なる。会衆で歌う賛美歌、聖歌隊の合唱、オルガン曲など、内容はその都度変わる。また、日曜日の礼拝やミサだけでなく、ウィークデーにもさまざまなプログラムが用意されており、むしろその時の方が良い音楽だったりもする。近年はそれぞれに教会がウェブサイトで案内している。世界的に有名な少年聖歌隊の場合、演奏旅行に出ていることもある。その代替プログラムは、世界各地から合唱団がゲスト出演して礼拝を担当することもあり、「せっかく来たのに聴けなかった」なんてことにならないよう、事前に時間や内容を調べてから出かけた方が良いだろう。ぜひとも良い音楽にライブで触れて、感じとっていただければと願わずにはいられない。




