

Praha Hlavni Nadrazi プラハ本駅(中央駅)。1曲目「ヴィシュフラート(高い城)」の冒頭、ハープが奏でるテーマが鳴ると、駅構内にアナウンスが響く。列車の発着案内でその音が聞こえる。プラハでなければ実感できない短い音楽だ。
チェコを代表する作曲家ベトジフ・スメタナによる連作交響詩「わが祖国Má vlast」。この冒頭のテーマは1曲目だけでなく、2曲目「ヴルタヴァ(モルダウ)」、第6曲「ブラーニク」の最後にもこのテーマが顔を出し、音楽全体を締めくくる大切なメッセージでもある。「わが祖国」という作品を、知り合いのチェコ人は「特別な音楽」だと語る。
思い起こせば30年前。ビロード革命後の1990年、「プラハの春音楽祭」のオープニングコンサートで、長年祖国チェコを離れていた指揮者ラファエル・クーベリックが万雷の拍手で迎えられた。本家チェコフィル の映像を観ていたが、ただ音を聴いていた。音楽を理解していたとは言い難かった。今、その映像は、演奏する者の音楽はもちろん聴く者の思いも熱くし、心の底から感動を呼び起こす。この音楽がチェコの歴史を映し出してきたことを改めて知り、なぜその時に気がつかなかったのかと自らを恥じる。
それまで「わが祖国」の中で「ヴルタヴァ(モルダウ)」はあまりにも有名で、ずっとそれだけで十分だと思っていた。しかし、いろいろと学ぶうちにそうではなかった。火炙りの刑に処せられた宗教改革者ヤン・フスの思いを受け継ぎ戦ったフス戦争での戦士たちの歌は、第5曲「ターボル」と第6曲「ブラーニク」の主題として用いられている。チェコの歴史を語る上で、フスは精神的な支柱であることを鳴り響かせて音楽が構成されていることがわかった。そのきっかけは、2017年に新国立美術館で開かれたアルフォンス・ムハの「スラブ叙事詩」だ。20枚の大きな絵を観たことに圧倒されるとともに、一枚一枚の絵の意味を考えさせられた。その2ヶ月後、ヤクブ・フルシャ指揮による東京都交響楽団による「わが祖国」の全曲演奏を聴いた。珍しく1ヶ月ほど、頭の中に鳴っていた。スラブ叙事詩に描かれていた内容と、スメタナの音楽が持つ背景とが重なった。そして、Bärenreiterから出版されている連作交響詩 Má vlast の6曲がまとまって収録されているスコア集をインターネットで取り寄せた。楽譜を観ながら聴くと、目や耳で追う音楽が立体的になって面白い。
いつの日か、毎年5月12日にプラハの春音楽祭のオープニングコンサートが開かれる市民会館スメタナホールで「わが祖国」を聴いてみたいと切実に思う。しかし、チケットは高くかつ入手も極めて困難だというからいつになるか。
そんな思いもあって、プラハ本駅でヴィシュフラートのイントロが流れると、無性に嬉しくなる。プラハにいる時だけ味わえる特別な瞬間だ。日本風にいえば「ご当地ソング」なのかもしれないが、こうした長い時空を超えて問いかけてくる。また、ヴィシュフラートは戦場だった歴史もあり、またチェコの著名人の共同墓地もある。スメタナもドヴォジャークも、ムハも、クーベリックもここに眠っている。そこで、撮った写真を使ってこんなスメタナを中心にした動画を作成してみたので、是非ともご覧いただきたい。
